02 朝食は和食派? 洋食派?
驚きから目を覚まし、寝起きであること、パジャマ姿であることを思い出す。慌てて詩紋を部屋から追い出して、あかねは出来うる限り最大限のスピードで着替え、詩紋に顔を隠しながら洗面所へと走った。今更だなぁと詩紋が呟く声が聴こえたが、そういう問題ではないと、あかねは洗面所の鏡の前で思う。
パジャマ姿は、いいとして。起き抜けの顔はまずい。
もともと化粧などは申し訳程度にしかしない性質なので、用意などはすぐに済んでしまう。あかねはどちらかといえば童顔の部類なので、これ以上化粧を濃くすればかえって不自然になってしまうため、リップを塗るくらいのことしかしないのだ。
高校時代は化粧などしていなかったし、そもそも素顔を見られたことが問題になっているわけではない。起きたばかりの、彼に会うことを何も意識していなかった顔というのは、最も見られたくなかったところかもしれない。
頬を掠める髪を後ろで結い上げ、あかねは小さく息をついた。
リビングを覗くと、詩紋がテーブルの前に座って新聞に手を伸ばしていた。ここ数年の間に幼さはなりを潜め、詩紋の手はあかねのものよりも当然のように大きくなっている。きれいだなと、見惚れることもしばしばだ。男くさいのではなく、指の長い、しなやかな手。
あかねはその手から視線を外し、リビング内をくるりと見回す。
「お母さんは?」
「出かけるんだって。詩紋君、あかねをよろしくねって頼まれちゃった」
「よろ・・・なんか、色々間違ってる気がするの」
年頃の娘の部屋に彼氏を上げ、しかも家に二人きりにして出かける母親。
前代未聞だ。
「もう・・・・・・まぁ、いいや。じゃあ出かけようか」
「え? 朝ごはん、食べないの?」
朝ごはん、とあかねは繰り返す。いや、確かにお腹は空いているが。
時間はすでに十時四十分だ。デートを満喫するには遅くは無い時間だが、朝食には遅すぎる。外に出て、昼食と一緒に食べてしまうほうが効率がいい。
「時間が時間だし、お昼と一緒で・・・」
「実はね」
詩紋は立ち上がり、にっこりと笑った。この笑顔には勝てないと、あかねは骨身に沁みて知っている。
涼やかな声で。
「ご飯も頼まれちゃった。朝ごはんは、和食派? 洋食派?」
「・・・・・・・・・・・・和食で」
「りょーかい」
台所に立つ後姿に、あかねはため息交じりで答えた。
「・・・・・・おいしい」
「そう? よかった」
にこにこと、詩紋は自分が作った朝食を眺める。ものの三十分で味噌汁に焼き魚、そして卵焼きというオーソドックスな日本の朝食を整えて、あかねの母親が炊いていったご飯と共に食卓に並べ終えた。手際のよさは、料理慣れしていないあかねがかなうはずも無い。
悔しいなと、思う。
朝から何一つ、いいところがない。自分に一番うんざりだ。
デート当日に寝過ごして彼氏に迎えに来てもらった挙句、朝食まで作らせて。
もっともっと、好きになってもらいたいのに。
「・・・なんか、ごめんね」
「え、何が?」
「色々。待ち合わせにはいけないし、ご飯まで。・・・かっこ悪いよ、私」
落ち込む。
そう呟いてため息をつくあかねを、詩紋は目を丸くして見ていた。予想だにしていなかった言葉らしく、視線を宙に泳がせて、しばし。
「・・・・・・いい練習になったじゃない?」
「練習?」
「うん。結婚してからの」
ガコッ、ガン。
茶碗を落とし、驚きに跳ね上げた膝を強打する。痛みになんかかまってなどいられず、あかねは沸騰する勢いで顔中を赤くした。
箸を持ったままの右手が、意味も無くわきわきと動く。
聞き間違いか、はたまた詩紋の気の迷いか。
―――― どうやら本気らしいと、その笑顔で悟りはしたものの。
「けっこ・・・! し、詩紋く、ん・・・っ!?」
「パジャマ姿も見れたし、ちょっと思ってたんだよね。結婚したらこんな感じなのかなぁって」
「・・・・・・えとっ、えーっと! ・・・・・・・・・・・・・・・っ」
「そうだな。僕が今高校三年でしょ? 大学には行きたいから、もうちょっと待ってね。卒業して、就職できたら改めて申し込むから」
「ま、待って・・・・・・!え、本気、なんだよね・・・?」
「僕はあかねちゃんに関することは、いつだって本気だよ」
「だって・・・!」
「結婚式は、和風派? 洋風派?」
「・・・・・・!!」
そんな、朝食を訊くように。
そう言いたかったのに、声が出ない。あかねは言葉無く、食器を避けて机に突っ伏した。
それはきっと 眩暈がするほど 愛しい世界
楽しみね、マイ・ディア。
なんていうか・・・詩紋キャラ違わんか?(気付くの遅)ナチュラルにあかねとの未来を想像できるむっつりスケベ(酷)に乾杯。
最後の一文だけ雰囲気が違う気もしますが、まぁそのあたりはご愛嬌。
詩紋の白タキシード姿が見たいです。(願望丸出し)