03 おめかしして
食器を片付け終え、先ほどの詩紋の発言からきたショックから立ち直り。
あかねは、ふうと息をついた。
時計は十一時を過ぎており、デートに行くには少し遅めの時間になっている。だがそれでも、やはり二人でどこかへ行きたいという気持ちがあった。せっかくの休日なのだし、ただでさえ最近ではあかねは課題、詩紋は受験勉強に忙しくそれどころではない。ちゃんと時間をとって会うのは、実に二週間ぶりのことだった。
よし、とあかねは気合を入れる。
「詩紋君、先に玄関で待ってて!」
「え? あかねちゃん?」
服はこれでいい。充分におしゃれしたつもりだし、髪も乱れてはいない。だが念のためバレッタをもう一度外し、丁寧に付け直した。代わり映えはしないが、なんとなく満足する。
さて、問題はこれから。
あかねは鏡の前で、ぎゅ、と小瓶を握り締めた。
「おっ、おまたせ!」
緊張しすぎもいいところだ、と、あかねは少しだけ上ずった声を発してから思う。付き合い初めの頃じゃあるまいし、どう考えても浮かれているような気がした。
それに、この変化に、詩紋は気がつかないだろう。
些細なことだ。それに見た目も欠片と変わっていないので、意識せずともいいのだとは思う。しかしそれでも。
あかねは玄関に立つ詩紋の横でサンダルを履き、笑顔で立ち上がった。
「さ、行こっか」
詩紋よりも先に玄関の戸を押し開き、外の風を頬に受ける。天候は上々、天気予報でも、雨の気配すら感じられない日だと言っていた。青空を見上げ、あかねは頬を緩める。
いい天気でよかったよね、と、振り返った瞬間。
視界が、太陽よりも眩しい金色で埋まった。
「えっ・・・!」
「・・・あかねちゃん、香水とかつけた?」
自分の耳より少し下から、声がする。頬と頬が少し触れて、そのときになってやっと、顔が視界の外へ出てしまうくらいに詩紋が近くにいるのだとわかった。
背をかがめるようにしてあかねの首元に顔を近づけ、どうやらあかねからする香りを確認しているらしい。
錯乱しそうだ、と、あかねは身動きの出来なくなった状態のままで考えた。
昔からスキンシップは多かったが、今になっても頻繁にこういうことがある。詩紋はあかねに近づくことを自然にするが、あかねはといえば詩紋を恋愛対象として見るようになってからというものの、この距離に慣れないでいた。もっとも詩紋については、生来の屈託のなさがそうさせるのか、それとも確信犯なのか、いまひとつ曖昧なところではあったが。
だから詩紋が顔を離したとき、あかねはほっと息をついた。まだ心臓がバクバクと煩い。
「柑橘系? いい香り」
「う、うん・・・前の誕生日に、蘭にもらったの」
あんたはおしゃれが淡白すぎる、と、蘭があかねにくれた香水だった。もともと香水などはつけないから、母親の鏡台にのっているもの以外では初めて手にとったものだ。素直にいい香りだと思ったし使ってみたいとも思っていたが、今までしていなかったことをそう簡単にするはずもなく、なんとなく今日まで取っておいたのである。
だが、これをつけるなら、初めは詩紋と出かけるときがいい。
それだけは、決めていた。
詩紋はにっこり微笑んで、あかねの赤くなった頬を撫でる。
「あかねちゃん、おめかししてくれたんだね」
「・・・うん」
「ありがとう」
ああ、本当に。
なんでこんなに、大好きなの。
愛しさを噛みしめて、あかねは瞬く。
「あかねちゃん、大好き」
極上の笑顔のままぎゅ、と抱きしめられて、そんなことを囁かれれば。
感じるのは、至上の幸せ。
砂を吐きそうなくらいのゲロ甘に仕上がりました。(台無し)
どう書いてもバカップル最前線になるんですけれどもー・・・・・・いったいあたしにどうしろと!!(文章力上げろ)それにしても、あたしの中で詩紋のイメージってどうなっているのか。いよいよ判らなくなってきましたよ。
こんな素で微妙にエロい奴を目指していたのではないはず・・・