僕らの中にある、小さな小さな矛盾。相違点。
同じ顔と声と身体を持った僕らの、おそらく、たった唯一の。
「ねぇ兄弟」
「ん?」
僕が声をかけると、僕と同じ顔が振り向く。当たり前の光景だ。
僕がその事実に瞳を細めると、兄弟は手入れ中の斧を放り出して僕の傍へと寄ってきた。兄弟を呼んだっきり何も言わない僕を不思議そうに見て、兄弟はソファの足元に腰を下ろす。僕はソファに座っているので、兄弟を見下ろす形になった。赤い瞳が、ぱちりと一度瞬く。
同じ顔。同じ声。同じ身体。僕たちが同じであることに疑問を抱いたことは無い。何故ならそれはたぶん、生まれた時から当たり前のものだったからだ。昔はお互いの瞳の色が違うことが不思議でならなくて、でもそれもすぐどうでもよくなった。瞳の色が違っても、兄弟は“僕”。鏡の中の僕よりも近しい“僕”自身。まったくの同一人物だ。
しかし不思議なことに、僕と兄弟にも性格の違いが(僅かとはいえ)出てくるようで、僕たちはお互いに一人でありながら、一人ではなかった。ややこしいことに、個性が生まれたのである。
僕は休みが大切、兄弟はお金が大事。それは些細なことで、決定的な違いではない。兄弟だって休みは大切だろうし、僕だってお金はそれなりに重要だと思っている。それでも僕たちに生まれた個性は、僕たちを明確に二人に分けた。もう一人の“僕”が、僕に近しいだけの違う人間になったということだろう。
少し考えに耽っていた僕に焦れたように、兄弟は僕の膝に手を置いた。
「兄弟、どうしたの?」
「うん。ね、兄弟はお姉さんが好き?」
「え?」
また赤い瞳を瞬かせて、兄弟は少し驚いたような顔をする。そして、少しの逡巡も無く答えた。
「うん、もちろんだよ。面白いし、優しいし、こんなにも長い間、ボスにもひよこウサギにも殺されなかった! それにね、すごく可愛いよ。大好き」
「僕もそう思う」
「だよねだよねっ!」
予想しえた答えに僕が同意すると、兄弟は嬉しそうに語気を強める。嬉しい時の僕はこんな風なんだろうな、とその姿を見て考えるが、その思考は兄弟本人によって中断された。兄弟は、僕の足元からソファの上へと身体の位置を移して、お姉さんについて話し始める。楽しそうに、嬉しそうに。
僕もやはり、お姉さんが好きだ。とても好き。でも、たぶん兄弟とはちょっと違う。
僕と兄弟が一番好きで大切なのは、お姉さん。僕らのことを「いい子」だと褒めてくれる、綺麗じゃないけれど可愛い女の子だ。暖かくて柔らかくて、僕らにはない「心臓」を持っている。お姉さんの胸から聴こえるあの音は、僕らの身体の中からはしない。
「心臓」は、お姉さんの気分が変わるたび、刻まれる音の速さも様々に変化した。僕らがお姉さんの胸に耳を押し当てている時は、たぶんいつもよりもテンポが速いのだと思う。ちょっとしたことですぐに高鳴るそれが、僕らは好きで好きでたまらなかった。
でも、僕と兄弟は同じじゃない。
お姉さんに見分けて欲しいわけじゃない。そうじゃなくて。
僕は目元を和ませてお姉さんのことを語る兄弟に、前置きも無く尋ねた。
「兄弟。兄弟は、お姉さんが一番大事なんだよね?」
「え? うん、そうだよ。兄弟もだろ」
「もちろんさ、兄弟。僕も、お姉さんが一番大事」
「おんなじだね」
「おんなじだよ」
僕の言葉に、兄弟は満足そうに笑う。その笑顔に向けて、僕はさらに尋ねてみた。答えには、半ば予想が付いていたのだけれど。
「じゃあ、お姉さんの次に大事なのは?」
「そうだね、お金かな」
やはり僅かの逡巡も無く答えた兄弟に、僕は満足した。やっぱり、兄弟はこうでなくてはならない。
そう、兄弟は、お姉さんの次にお金が大事。
僕はお姉さんの次に兄弟が大切だけれど、同じじゃなくてもいいと思う。兄弟はお金の次くらいには僕のことを重要視しているだろうし、僕はそれで充分満足だった。むしろ、同じでは困る。
それでいい。それで。それでこそ、僕は兄弟を大切だと思える。
僕らは同じだけれど、まったくの同じであっちゃいけない。僕は“僕”がそれほど大事だとは思えなかったので、兄弟が僕とまったく同じではいけない。死のうが生きようが、どうでもよくなってしまうから。
お姉さんに言うとおそらく怒られるので秘密にしているが、僕は僕などどうでもよかった。僕にとって重要だったのは兄弟で、僕自身じゃない。兄弟はたぶん、兄弟自身のことも大事だろう。お金というのは、自分のためだけにしか使えないものだ(誰かへのプレゼントにしたって、自己満足の範疇なのだから)。
大好きな兄弟。お姉さんがいなければ、僕の一番だった“僕”。
兄弟が兄弟じゃないと、一緒にいる価値なんて無いのだ。
「兄弟は違うの? 違うか、兄弟は休みの方が大事だもんね」
「うん、そうだね。休みはすごく重要だと思うよ」
お姉さんと兄弟の次に、ね。
僕はただ、抑え切れない笑みを漏らす。
大好きで大切な僕の兄弟。愛しくて「代わり」のいない、僕らのお姉さん。
兄弟は僕じゃない、お姉さんは二人といない。だから、僕は二人が好き。
二人とも、僕のもの。
この世で二番目に君が好き
(僕は“僕”に興味は無いんだ)
ディーの思考回路。おかしいね!(笑) いや、アリスキャラはみんなおかしく書きたくなるのさ・・・・・・。
うん、まぁ、ディーは我が身可愛いタイプじゃないと言いたいわけです。なので、自分と全く同じ人間では存在価値が見出せない、と。だから、近しいのに自分じゃないダムが好き。代わりのいないアリスが好き。
アリスがいなきゃ危うくBLだよこれ(笑) アリスのことを好き好き言ってても、なんだかおかしい雰囲気ですが。いつか双子BLが書きたいです。絵版でははっちゃけておりますが。
楽しいのは好き、気持ちいいのも好き、でも片割れとアリスはもっと好き。その二人は自分のものだと言い張るジャイアニズム(違)
腹の中真っ黒みたいな感じになってしまいました・・・・・・