「「おねーえさんっ」」

 

 

屋敷の門を出たところで、見事なユニゾンがアリスを呼び止める。ぎくりと身体を強張らせるアリスの両サイドから、可愛らしくも悪意に満ち溢れる笑顔を浮かべた双子が腕を絡め取った。甘えるように、しかしがっちりと放さないように拘束された腕に、アリスは頬をひくりと歪める。

にこにことアリスを見上げる双子――――右腕はディー、左腕はダムだ――――のまとう気配は、不穏なものにアリスには見えた。その原因にも大いに心当たりがある彼女は、努めて平静を保ちつつ笑顔を返す。

 

 

「ど、どうしたの、あなたたち」

「おねえさんこそ! どこに行くの? 今日も遊んでくれないの?」

「いつも僕たちを置いて出かけちゃうよね。僕たち、おねえさんと遊びたいのに」

「うん、遊びたい遊びたい!」

 

 

にこにこにこにこ。双子のその笑顔は、無邪気に見えた。たとえアリスの両腕が、振り払うどころかぴくりとも動かない程の力で拘束されていても。たとえその双子が、今まで数え切れないほどの人を屠っていると知っていても、だ。

細められた二対の瞳の奥に、ちらちらと炎が垣間見える。怒らせると怖いことはとうの昔に知っているが、笑顔で責められる時ほどさらに怖い。わかりやすく怒ってくれた方が、怒りの度合いとしては低いことは身に沁みて知っていた。今の笑顔は、まるで、舞踏会でアリスがペーターと(非常に不本意だが)浮気をしたときのような。

 

 

「出かけるなら僕たちも一緒に行くよ」

「あ、あなたたち、仕事はいいの?」

「おねえさんより大事なものなんて、何も無いよ!」

「ね、どこ行くの? ハートの城? 時計塔広場? それとも」

「「遊園地?」」

 

 

びくり、と身体が反応してしまい、アリスはいっそ泣いてしまいたいと焦りを感じながら思う。ああ、両脇から感じる冷気の寒いこと!

ディーがダムに目配せし、二人は笑顔のままアリスを引っ張って門の中まで戻った。ずるずると引きずられる状況にデジャヴを覚えるものの、実際はそんなことを思い出しているほど余裕は無い。アリスは内心(怖い怖い怖い!)と同じ単語を繰り返し、血の気を引かせている。

門の中に戻るだけでなく、屋敷の広大な敷地に無数に生える、木々の陰に連れて行かれた。見当違いにも、木なんか全部伐採してしまえ! とアリスが半泣きで八つ当たりしていることも知らず、二人はアリスの両腕を解放した。

そしてディーは、アリスの胸元を強く押す。よろけた先に大きな木が生えていて、背にそれが当たった瞬間に、背後にさえ逃げ場など無いのだと知った。いや、最初から逃げられるなんて、全く思ってはいなかったけれど。

背後を塞がれて、自分よりも背の低い子供二人に追い詰められる。ダムが確かな(いやらしい)意図を持ってアリスの腰に手を這わせるが、それを払いのける気力も無かった。

 

 

「おねえさん、遊園地に行こうとしてたの?」

「ちっ、違うわよ、別の・・・・・・っ」

「本当に? 嘘なんてついたら、僕たち泣いちゃうよ」

「ついて・・・・・・な」

「「本当、に?」」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・行こうとしてました」

 

 

ユニゾンで追い詰められ、嘘をついたらさらに酷いぞと暗に脅迫されている気がする。アリスはその気配を敏感に察知して、素直に白状した。

やっぱりね、そう言いながら、ディーの腕まで腰に回る。二人に同時に抱き寄せられて、アリスは恐ろしいデジャヴに再び襲われた。双子はアリスの肩にべったりと頭をもたせ掛け、見掛けは可愛く、内面に怒りをたたえて笑顔を浮かべる。

ねぇ、とディーが囁きながら、少し伸びをしてアリスの耳朶に唇を触れさせる。

 

 

「僕らと遊ぶのは、嫌?」

「・・・・・・そんなこと、ないわ」

「でも、おねえさんは遊園地に行っちゃうんでしょう」

「僕らに内緒で」

「ボリスのところに」

 

 

耳の中に入ってくる吐息にぞくりと背筋を震わせながら、アリスは小さく首を振った。ボリスは友人だ。何度説明したか知れない。

ただ気まぐれなその友人は、よりにもよってこの双子が目の前にいるその時にアリスにキスをした。(頬じゃない、唇だ!) 軽く触れるだけのバードキス、しかし双子を怒らせるのには充分で、彼らはアリスの感覚で言えば一時間ほど喧嘩――――訂正だ、殺し合いをしていたのである。それが、六時間帯前。

ふざけるにも程がある。あの猫は、アリスをからかうのが楽しくて仕方が無いのだ。そして普段は誰に何をしようとも楽しみこそすれ、人のことで怒ったことの無い双子が、感情を乱すことを面白がっている。

さっきは、遊園地へ行こうとしていた。それは事実だ。しかし内容はおそらく大きな誤解をされているのだろう。アリスはボリスに会いたくて遊園地に行くのではない、厳重注意という名の元、説教をしに行こうとしていたのである。

そんな言い訳が、今通るかどうか。自称『アリスに甘い』双子は、無自覚サディストだ。

 

 

「会いたくて行くんじゃないわ! ちょっと言いたいことがあっただけよ」

「ふぅん。僕たちに内緒で?」

「うっ、だってそれは・・・・・・!」

「わかってるよ、おねえさん。もうあんなことしないでって言いに行くんでしょ?」

「そ、そう・・・・・・! わかってるなら」

「でも、ダメ」

「え?」

「僕らに内緒でおねえさんがあの猫に会うなんて、色っぽい理由じゃなくても許せそうに無いよ。ねぇ兄弟?」

「そうとも兄弟。僕もとてもじゃないけど許せないよ」

「・・・・・・じゃあ、ついてきてよ」

 

 

わかりやすい独占欲を示してくる双子に半ばふてくされて言うと、ダムが瞳を細めて凄絶に笑った。それは、ねぇ、と片割れに目配せし、続く言葉は、その片割れであるディーが引き継ぐ。

 

 

「駄目だよ、おねえさん」

「な、なんでよ・・・・・・?」

「だって僕ら、今ボリスに会ったら殺したくなっちゃう」

「すっ・・・・・・ごく、残酷な殺し方、したくなっちゃうもんね。ボリスは友達だから、僕たちそんなことしたくないんだ」

「そうそう。ボリスも言ってたよ。残酷な殺し方が好きな奴は、銃なんか使わない――――刃物を使うんだ、ってさ」

 

 

そう言って視線を二人して常時手放さない斧に向けるものだから、アリスは観念して遊園地に行くことを諦めた。ボリスが殺されても困るし、二人に友人を殺させるわけにもいかない。わかったわ、行かないと言えば、二人はやっと子供らしい笑顔を浮かべた。

 

 

「本当、おねえさん!」

「すっごく嬉しいね、兄弟!」

「そうだね兄弟。おねえさん、好き!」

「僕も好きだよ! 大好き!」

 

 

ああ、まただ。アリスはぎゅうっと抱きついてくる二人の子供の背中に手を回しながら、同じ声で発される「好き」の言葉を頭の中へ押し込める。好き好き好き、何度言われたって、嬉しいものは嬉しい。

 

 

「・・・・・・私も好き」

 

 

抱きしめる力を強めてそう言うと、方頬ずつキスをされる。愛してるよおねえさん、ずっと僕らの傍にいてね。そんな甘い台詞を、不釣合いに成熟しきらない声と顔で囁いて。

ボリスごめん、と、アリスは心の中で頭を下げた。説教しに言ってやろうかと思っていたが、コレでは説教どころか会いにすら行けない。しばらく遊ぶことは出来無さそうよ、と呟きつつ、不穏な触れ方をしだした二人の手をぺちりと叩く。少し残念そうに顔を見合わせる二人の額に、アリスは自分からキスをした。

 

 

「好きよ、二人とも。ずっと傍にいるからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わ れ て

(なんて心地のいい檻なのかしら!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初アリスは双子。なんていうかもう耐えられない、好きすぎる双子! ペーターと同列で好き・・・・・・!

あの可愛いようで全く可愛くない思考回路なくせに、声に出して言ってしまえばたちまち可愛くなるという不思議な魅力。いやむしろ魔力。もう福山ボイスのせいとかじゃなく、単純にあの双子だからそうなるんだと思います。いえ、福山ボイスも偉大ですが。むしろ一役どころか三役ぐらいかってそうですが。

余談ですが、この話のタイトル、「囚われて天国(パラダイス)」とかになりかけました。さすがにダサすぎるのでやめました。内容が軽いから別にいいかなとか思った自分を殴りたい。

タイトルは上の感じで。アリスだけなんとなく。