好き好き大好き、愛してる。
僕がそう言うたび、彼女は嫌な顔をする。何言ってんの、煩い、馬鹿でしょあんた、しつこいなぁ。そう言って足を速め、僕から逃げるために躍起になって。
そういう彼女の背中を見るのはたまらない。こんなことを言うと、たぶん拳が飛んでくるだろうから言わないが。
ああ、なんて可愛いんだろう! なんてなんて虐め甲斐のある人だろう! そうやって彼女が逃げるたび、僕がこんなにも胸を震わせていることを彼女は知らない。追い詰めて追い詰めて、そして逃げ場の無くなったところで彼女の見せる表情が、さらに僕を彼女に夢中にさせていく。
本当は僕がいなければ生きていけないくらいには、僕のことを愛しているのだ。知っていた。彼女は照れ屋で天邪鬼で、さらに強情っぱりなものだから、態度にも言葉にもしてくれないだけ。そんなところも、たまらなく可愛いのだけれど!
どんなにきつい視線で睨まれたって、僕は全く気にならない。むしろ彼女の視界にしっかりと入っているという事実が、僕の高揚と興奮を煽った。そういうところが病気だっていうの、と、彼女はいつもよくわからないことを言う。
それと同じように、たまに彼女は私のことが本当に好きなの? と真顔で訊いてくるけれど、好きじゃないならなんだって言うんだろう。時々すごく嫌われているんじゃないかと思うわ、なんてことを言い出すものだから、僕はそれが間違いだとわかってもらうために、またアリスを追いかける。
僕ほど彼女を大切にしているやつはいないし、僕は彼女を虐めることが大好きだけれど、彼女になら何をされてもいいと思っているのだ。彼女にも言ったはずだ、もしも彼女が邪魔だと思うなら、この耳を切ったってかまわないんだと。それは虚言じゃなく、心からのプロポーズ。
好きじゃなきゃ、命ごと差し出したりなんかしない。愛していなきゃ、こんなに虐めたりなんか。
だって、知ってるでしょう?
嫌いな奴なんて、すぐさま殺したくなっちゃうんだって。
好き好き大好き、愛してる。
そう言われるたび、毒を流し込まれているような気がする。根が腐ったこの男は、それでも私に対して嘘をつかない。いつだって私に対しては誠実で、それを知っているから余計に、この盲目的なまでの愛は重いのだ。
この世界に残ると決めてからいくつの時間帯が過ぎたか――――さすがに数えるのはやめた。私はあの男が好きだというだけでこんな得体も知れない不安定な世界に残ってしまって、未だに後悔ばかりしている。後悔をしているのに、なんというか、あの男に愛を囁かれるたび、残ってよかったなぁなんて思ってしまうこと自体を嫌悪していた。
私を追い詰めるときの、あの男の幸せそうな顔ときたら! あんたはマゾだなんて断定してみたものの、性根は限りなくサディストに近い。それでいて私に耳を切れだなんて言うのだから、たいがい不可思議な精神構造を持った男である。
愛ある虐めは、実に恐ろしい。甘い責め苦だ。逃れられない鉛の枷。痛くはないが、ただ重い。
嫌だ嫌だと言いながら、その言葉の裏で非常に期待をしていたりする自分が、実は一番許せなかった。絆されて絆されて、ついにここまで堕ちたか私、と頭を抱えたい心境である。こんなに多くの時間をあの男と過ごしているのに、あいつの「愛している」には未だに中身が無い。そんな中身の無いただただ重いだけの愛に、私はいつしか酔ってしまった。
愛という名のそれは、からっぽの執着だ。どこまで掘り下げようとも中身の無い、空白の狂気。それは私の首を絞めるようにいつだって絡まっていて、時折歩くことさえ出来ないんじゃないかと錯覚してしまう。間違いなく束縛だったが、それは私に安堵を与えた。この狂った男が、まだ私を必要としている証拠。私が、彼を好きでいていいことの証明なのだ。
この時間の狂った国で、狂った兎に愛されて愛されて愛されて、その束縛を受け入れて。
執着されることに安心感を覚えるなんて、私もたいがい、狂ってる。
魂 の 虜
(もう手遅れ)
頭のおかしい両想いカップル。ひたすら平行線なくせに、その距離がベストポジションなのです。絶対に交わらない恋と愛のあり方も、この二人の場合ありかなと思いまして。
それはもう、無意識のうちに魂レベルで拒絶しあって求め合う、甘くない恋愛の形。