Muffler
夜中、十一時四十五分。携帯がメールではなく、着信を告げる。
こんな時間に非常識な、と鬱陶しげに視線をやって、ルルーシュはディスプレイに表れている名前に釘付けになった。普段から顔を見ることは多い彼が、こんな時間に電話をしてくるのは初めてだ。リヴァルならともかく、少なくとも彼は、こういうことにはきっちりしていると思っていたのだが。
無論、着信が嬉しくないわけではない。ルルーシュは少しだけ早くなった鼓動に気付かないフリをして、通話ボタンを押した。
「なんだ」
『あ、ルルーシュ?』
ディスプレイに名前が出ていたから名乗らずに出たが、彼はそれを気にした様子もなく明るい声を出す。優しい声に、ほっと吐息が漏れた。
この声が好きだ。
少し甘く、高くはないが低くもなく、ルルーシュの中に陽だまりのように溶ける、声。
この声の持ち主は、もっと好きだけれど。
「こんな時間にかけてくるなんて、何かあったのか?」
『え? あ、違う違う。いや、あるといえばあるんだけど』
はっきりしない物言いの彼に呆れながら、ルルーシュは起動していたパソコンの電源を落とした。もう調べ物は終わったし、どうせ寝ようと思っていたところだ。ルルーシュはキーボードの横に置かれた冷めたコーヒーを一口飲んで、いつものように窓の外へ目を向けた。最近秋からすりかわったばかりの光景は冬本番よりも寒々しく見え、中途半端に木々についた葉がいただけないなと思う。どうせなら、全て落ちるかざわめくほどに茂っていてくれればいいのに。
もう一度コーヒーカップに口をつける前に、耳元で彼が声を上げる。
『あ。ルルーシュ、下、下!』
「は?」
『下、向いて』
ふ、と言われるがままに視線を向けた先、予想だにしなかった人影を見つけて、ルルーシュは危うくカップを取り落としそうになった。とりあえずカップはテーブルの上に急いで置いて、携帯を肩と頬で挟んで両手で窓を開ける。冷たい夜気が頬を切り裂くようだったが、そんなことはどうでもよかった。
彼はもう見慣れた制服姿に真っ白なマフラーを巻いて、小脇に学生鞄を抱えていた。呆気にとられたルルーシュに、携帯を耳から外し手を振る。甘い笑顔のおまけ付だが、それだってどうでもいい。ルルーシュは、窓から身を乗り出す。
「危ないって!」
「煩いっ。お前、こんな時間に・・・・・・」
「ルルーシュ! 携帯でしゃべろう。ナナリーが起きちゃうよ。それに、ばれるとまずい」
しー、と指を唇の前で立てて見せて、スザクはまた携帯を耳に当てた。スザクの言葉にぐっと口をつぐんだルルーシュも再び携帯を耳に当て、窓の下のスザクに視線を向けたまま言った。
「・・・・・・で? 何をしてるんだ、こんな時間に、こんなところで」
『ルルーシュに会いに来たんだよ』
それ以外に何があるの、なんて笑って見せるので、ルルーシュは恥ずかしさに眉を寄せた。この幼馴染に、一度羞恥心だとかそんな感情を叩き込んでやりたい。自分たちは恋人同士などという甘やかな関係ではないし、だったらなんなのかと問われればやはり幼馴染ということになるのだが、それもどこかで確実に食い違っている。ただの幼馴染に恋にも似た感情を抱くなんて、どうかしているとしか思えなかった。
「ここは仮にも学園の敷地内だぞ? 警備に見つかったら、どう言い訳するつもりだ」
『だからばれたらまずいんだって』
「まったく・・・・・・」
夜中の学校に不法侵入を果たし、そうまでしてスザクは自分に逢いたかったとでもいうのだろうか。恋人じゃないんだから、と鼻で笑い飛ばそうとしてその思考は無いだろうと気付き、小さく頭を振る。本当に、どうかしている。
視線の先のスザクは苦笑しているらしいが、暗いためによくは見えない。暗闇に溶けそうな姿に目を凝らして、ルルーシュは窓枠に身体をもたれさせた。こんな夜中にわざわざやってきたのだから、それなりの用があるのだろう。
「で、何の用だ?」
『一番におめでとうって言いたかったんだ』
「は?」
何のことだかわからない。
そんな声を出したルルーシュに、スザクは一瞬の沈黙を置いて問いかける。恐る恐る、といった風情のそれに、ルルーシュはやや苛立ちながら返した。
『・・・・・・まさか、忘れてないよね?』
「だから、何をだ!」
『えぇ!? 本当に、本当に本当に本気?』
「しつこいぞ。はっきり言えっ」
『・・・・・・・・・・・・ふ』
「あ?」
また、一瞬の間をおいて。
「あはっ、あははははは!! る、ルルーシュ最高!」
「なっ」
夜闇に響く大爆笑。受話器とそれ以外から二重に聴こえる笑い声に、ルルーシュは眼を瞠る。自分でばれてはまずいと言いながら、これでは見つけてくれと言っているようなものだ。ルルーシュは笑い声を止めようと窓から身体を乗り出し、すぐに自分も大声を上げては意味が無いということに気がついて舌打ちした。急いで自分の部屋から駆け出て階段を下り、ドアを開け放ってスザクを手招きする。
「馬鹿! こっちに来い!」
「あはは、はは、はーもうだめ、面白すぎる・・・・・・!」
「いいから!」
ぐいと無理矢理手を引っ張って、ルルーシュはスザクを玄関の中へ入れた。ドアを閉めてルルーシュが一息ついてもなお隣で肩を振るわすズザクを、冷たい視線でじろりと睨む。その視線に気がついたのか、やっとスザクは笑を喉の奥に押し込めた。また耐え切れないというように口に手を当てて表情を隠しているが、今睨まれたままのこの状況で、さすがにもう一度爆笑する勇気はないらしい。
低い声で、ルルーシュが問う。
「・・・・・・で? スザクくんは、いったい何をしに来たのかな?」
「あー・・・・・・うん」
もともと鋭い眼光がさらに光を放つようで、さしものスザクも足を半歩引く。しかし気を取り直したのか、小さく咳払いをすると腕時計を見やった。
「さて、問題です。今何時でしょう」
「は? おい、質問に・・・・・・」
「関係あるから。今何時」
「・・・・・・十二時前」
不可解だ。まったく持って不可解な質問に、ルルーシュはただ答える。
「正解。じゃあ、明日は何の日でしょう」
「明日? 明日は、ミーティングだろ?」
「あぁ、それもだけど。そうじゃなくてさ」
「・・・・・・何の日だ?」
「もー、それじゃ大ヒント! 今日は何月何日だった?」
「今日・・・? は、十二月・・・・・・四、日・・・・・・あぁ!?」
「大正解!!」
腕時計をルルーシュのほうへ見せるように向けて、スザクはにっこり微笑んだ。ルルーシュは言葉を失い、ポケットから取り出した携帯の画面を見る。確かにディスプレイには“12/04”と小さく表示されており、今まで自分が気付かなかったことが嘘のように思えた。
「誕生、日・・・・・・」
まさか、自分の誕生日を忘れるなんて。スザクやナナリーの誕生日なら一週間以上も前から意識できるのに、自分のこととなったとたんこれだ。ルルーシュは、自分の迂闊さに呆れる。確かにもう率先して祝って欲しい歳でもないが、それでも忘れるというのはいささか間抜けすぎるだろう。
ショックのあまり口元に笑みさえ浮かべていたルルーシュをよそに、腕時計をじっと見つめていたスザクが、不意に口を開いた。
「五、四、三、二・・・・・・ルルーシュ、誕生日おめでとう!」
「え、・・・・・・あ」
携帯のディスプレイに、“00:00”と表示されている。たった今、ルルーシュは誕生日を迎えたのだ。
これを。
これを、言うためだけに。
スザクは、自分に 会いに来た。
「あり、が・・・とう」
「七年ぶりに、ルルーシュにおめでとうって言えた。嬉しいな」
これはプレゼント、と言いながら、スザクは学生鞄から紙袋を出す。少し可愛らしいラッピングだなと思いながら、ルルーシュはスザクが差し出すままにそれを受け取った。受け取ったルルーシュをニコニコと眺めているところをみると、どうやら目の前で開けて欲しいらしい。仕方がなく、ルルーシュはその袋を開ける。
「・・・・・・マフラー?」
「うん。ルルーシュ、寒いの苦手だったなと思って」
袋から姿を現したのは、チェッカーフラッグ柄のマフラーだった。少し長めで、その分ボリュームがある。
思わずまじまじと眺めてしまったルルーシュの手からマフラーをやんわりと取り上げ、スザクはルルーシュの首にグルグルと巻いた。しまりのない顔をして(言い換えれば楽しそうに)、上機嫌で呟く。
冬生まれなのに、ルルーシュは、寒いのが苦手。
先程も言ったことを、確認するように呟くのだ。
七年。
七年会っていなかった幼馴染の誕生日にこうやって祝えることが、さも幸せだとでもいうように。
「・・・・・・大事にするよ」
「うん」
よく似合ってるよと、スザクが笑う。
暖かいな。そう呟いた声は、スザクに聴こえただろうか。
暖かいのは、マフラーじゃなくて。
間に 合っ た ・・・ ・ ・ ・!!(滑り込み)
ルルーシュ誕生日おめでとうおめでとう!!貴方が生まれてきてくれてよかった!!とりあえず今回はC.C.は無視で(ご都合主義)
ルルーシュは『生きながらにして死んでいた』と言っていますが、スザクといる時だけは生きていたんじゃないかなぁと思います。そうであれ。(何だお前)
にしても、ひねりの無いタイトルだなぁ・・・・・・