Dance with me.
守らなければ 守らなければ 守らなければ、
ルルーシュは、細くか弱い妹の身体を見下ろしながら、口の中でそう繰り返した。未だ目覚めぬ彼女の足、枯れ枝のような、しかしこれから美しく伸びていくであろうそれは、医者によれば生涯動くことはないのだいう。凶弾は確実に重要な神経を傷つけて、最愛の妹から大切なものを奪っていってしまった。
何故こんなことになったのか、ルルーシュにはわからない。いくらルルーシュが賢い子供だったとはいっても、まだ十にも満たない年齢では、頭が理解することを拒むのだ。
庇護者は身罷った。優しく気高く美しい人。人を愛することが、どれほど尊いかを教えてくれた女性。
それ失くして、いったい自分たちはこの冷たい国でどう生きていけばいいのだ?
――――いいや、生きてはいけない。守ってはくれないから。それどころか、放り出すのだ。
あの男、実の娘の見舞いにも来ないどころか労わりの言葉さえかけて来ないこの国の皇帝は、ルルーシュと彼女を東の果てへと追いやる。いつこの帝国と戦争が起きようかという国に、実子二人を放り込むのだ。
そう、だから。
ルルーシュは繰り返す。
守らなきゃ、僕が、ナナリーを守らなきゃ
細い声は治療室を出た後もルルーシュの口から漏れ続け、病院の廊下、固いソファの上でくるまったシーツの中でも、確実に静寂を侵していった。横になりながらも膝を抱え、背を丸め、目を閉じもせずにルルーシュは繰り返す。
愛しい妹を、愛する彼女を守るために、力がなければならない。力、力、力、そんなものがどこにあるというのだ。今の自分には何もない。あるのはこの忌まわしい帝国の王家に連なる血だけだった。ああ、そんなものが、いったい何の役に立つというのか!
彼は絶望の淵でもがくことも出来ずに、じっと佇んでいる。その耳はやがて雑音を消し去って、完璧な静寂を生み出した。耳鳴りがするほどの静謐さは好ましく、ルルーシュは起き上がって眼前の暗闇を見つめる。
見つめた先、音は全くしなかったが、気配があった。そしてその気配はどこか懐かしく、その感覚に酷く心は逸るのに、何故かやたらと安心できる。不思議だと思いながら、ルルーシュはそっと微笑んだ。
暗闇が形を成して、渦を巻き、そして。
顔も見えない“それ”が、見えない口許で美しく笑う。
(ごきげんよう、私の愛しい半身よ)
「・・・・・・」
(私がわかるか? ああ、もう泣かなくてもいいんだよ。つらかったろう、可哀相に。私が、この私だけが、お前たちを守ってあげよう。なぁ、片割れよ。どうしたい? 望むのは、平穏か安寧か破滅か破壊か、それとも崩壊か?)
「・・・・・・ナナリーに」
(そうだな、ナナリーに。私がお前の望む最善にして最高の世界を与えよう。ナナリーに、そしてルルーシュ、お前にも)
「・・・・・・僕はいいんだ。ただナナリーに、優しい世界をあげたいだけ」
(ああ、あの子に優しい世界を。もちろんだとも! だが、それだけか? 他に望むことは無いか? 私はね、お前の願いならなんでも叶えるよ。この心を砕こう、力を尽くそう。私の全てはお前のものだ。好きに使え、好きに動け。私はお前を、ナナリーを裏切らない)
甘い言葉を囁きながら、ルルーシュと同じくらいの背格好をした誰かが微笑む。やはり、顔は見えない。だがルルーシュにはわかった。感じられた。それは、自分の姿をしているのだと。
暗闇が手を伸ばし、ルルーシュのまだ小さな手を撫でた。笑いながら囁きながら、その腕をルルーシュに絡ませる。その触れた闇の冷たさは、火照った頭には魅力的な誘惑に思えた。そしてそれと同時に、酷く危うい甘言であることもわかっている。足を踏み入れれば、どう足掻いたところで抜け出すことは叶うまい。
わかっていた。
逃れられない。――――逃れようとも、思わない。
「・・・・・・ブリタニアに破壊を。あの男に、死をもって償いを」
(――――ふふ、そう、それでこそ!! 私のルルーシュ、愛しているよ。お前が唯一、私の王!!)
暗闇が歓喜に震えた。背をしならせ、自らを造る闇に向かって高らかに笑う。
「僕は、ブリタニアを、許さない!」
(ああ、そうだとも! ははっ、ああ、何て気分だ!)
「僕に力をくれ。僕の全てをお前に貸すから、だから」
(――――イエス、ユアハイネス!!)
私はいつでもお前と共に、と言い残して、その気配は歓喜に塗りつぶされたまま掻き消えた。
ルルーシュはそのまま、目を閉じる。
暗闇から意識を戻したルルーシュを待っていたのは、ナナリーが目を覚ましたという、待ち望んでいた報告だった。おにいさま、と不安そうに呟く愛しい存在の髪を撫でながら、大丈夫だよと優しく笑んでやる。
大丈夫。
お前は、僕たちが守ってあげる
捏造すぎて何も言えない!(アイター)
に、二重人格設定とか双子設定とか大好物なんです・・・・・・