恋をするにはまだ早い
気にいらない。ていうか嫌い。あの斜に構えて世間を斜め上から見下ろした感じの口調と、まさにその通りな思考が。しかもまたそれが、ちょっと納得しかけるくらい合理的なところが。結局私は感情が邪魔をして、その理論も否定してしまうのだけど。
その自信たっぷりな物言いが癇に障って、私はついぞ彼に言った。
「貴方って――――ルルーシュくんって、もう少し謙虚になれないの?」
苛立った口調だったと思う。その日の彼に全く落ち度はなかったから、そんな物言い理不尽に思われてもいいようなものだけれど、彼は特に不快そうな顔もせずに「ふむ」と唸った。その時の瞬きで、睫毛の長さがうかがい知れる。ああくそ、私よりも長いじゃない。
少しの間細いあごに手をかけて視線を床に落とし考えていた彼は、考え事が終わったのか、いつもと変わらぬ調子で私に言った。
「おれはいつだって謙虚だ」
「どの口がモノを言うの!」
ばぁん、と存外大きな音を立てたファイル(今しがた机に叩き付けたのよ)に驚きつつ、私はこの場に他の生徒会のメンバーがいなくて良かったと思った。病弱設定は今となっては脆くも崩れかけているが、それでもやっぱり表向きはシュタットフェルト家のお嬢様なのだ。お淑やかに、慎ましくが基本。
でも、これがツッコまずにいられようか。いたって真剣に言ってのけたこの男に、誰が憤慨せずにいられようか!
「そういうところが謙虚じゃないって言ってるの。自分が口に出した意見が間違ってるとか、全っ然思わないわけ?」
「さぁ、そこまでは。でも確率や合理性から言えば、確実におれの意見はいつも正しい。カレンさんみたいに感情論なら話は別だけど」
「うっ、うるさいな!」
暗に感情論に偏りすぎだと言われ、うまく言い返せない。わかってるわよ、そんなこと。ゼロにも言われたことがある。感情で先走るな、焦りはいずれ隙を生む。うん、彼の意見はいつも素晴らしいわ。
返す言葉がなくて少しの間押し黙った私に、彼はああと思い出したように声を上げた。また禄でもないことを言い出すんじゃないかと思い、私は身を硬くする。
彼はいつの間にやら広げていたファイルの中身からひょいと視線を上げて、片目を眇めて笑った。
「でも君は、自信たっぷりな男は嫌いじゃないはずだよな」
「・・・・・・は?」
「違う? 意外とぐいぐい引っ張っていってもらう方が好きだとか、そんなタイプに見えるけど」
「ちが」
う、と言いかけて、口をつぐむ。現在片思い中の彼は、いつだって自信と理想に溢れた人だ。その彼に付き従っていくと決めた自分は――――そうなのだろうか? いや、でも、ゼロとこいつは違う。確かに最初は勘違いしたりもしたけれど、似ているのは声だけで。ううん、今となっては、声も似てなど聴こえない。
っていうか、よしんば私がそうだとしても、なんであんたがそれを知ってるのよ。
混乱してきた頭を抱えて、私は否定を忘れたまま額を押さえる。あれ、私は今何をこいつに言ってたんだっけ?
「よって、君はおれのことも嫌いじゃないはずだな。万事解決。良かったな」
「いやちょっと待ってよどこをどうしたらそういう結論が出てくるわけ、ていうか良かったって何が」
「違ったか?」
「まったく違うわよ、自意識過剰も大概にして」
「そうか・・・・・・」
ふぅん、なんて笑う顔は、やはり学校中の女子生徒が騒ぐだけのことはあるのだけれど、いかんせん私はこの男の性格の悪さを知っているので、なんとなくそれが邪悪な笑みに見える。ファイルの中から目当ての書類を探し当てたのか、彼は小さく「あった」と口に出してから、一言。
「おれは嫌いじゃないよ。カレンさんのこと」
私は嫌いよ、と返そうかとも思ったのだが、どうも切り返しが怖い。これだから頭がいい奴は、まるでビックリ箱のように、何が飛び出してくるかわかったものではないから嫌いだ。言葉に詰まって私が苦しんでいると、彼はちょっと口の端を歪めて喉の奥で笑った。
「あ、でも好きってことではないから安心して」
「はあぁ!? とっとととと当然よ!!」
思い切り狼狽した声の私をもう一度笑って、彼は長い足を組みかえる。ちょっと優雅なその仕種に腹がたって、私は机の上のイベント案件書類の束を、綺麗な顔にぶつけてやった。
「貴方って本当に性格悪いわ、ルルーシュ!!」
ルルCと同じくらい好きです、ルルカレ。ゼロとルルーシュの意見が同じでも、カレンには違って聴こえるミラクル。